奇数のオイラー数!?

  先日子供が立方体や多面体など幾何の宿題をしているのを見て、 ときどきやってしまうことなのだがチャチャを入れた。 「知ってる? 立方体だろうがサッカーボールだろうが、 どんな多面体でも頂点−辺+面の数は2になるんだよ」 と言ったら存外興味を示して来たので、 その証明をしてやった。 これは後の話と関係があるので、 ちょっと説明しよう。
 サッカーボールは五角形と六角形の組み合わせだが、 一般にある多面体のある辺の両側が4以上の角形だとして、 その両端の頂点を近づけて行って一致させたとしよう(次図参照)。



この変形で辺の数を減らせるが、 このとき頂点も一つ減り面の数は変わらないので、 頂点−辺+面の数(これをオイラー数と呼ぶ)は変わらない。 では片側が三角形のときはどうなるか(次図参照)。 両側でもよいが。



三角形が一つつぶれるので、頂点は一つ、辺は二つ、面が一つ減る。 またしてもオイラー数は不変だ。 だから、この操作をどんどん続けるとどんな多面体も最後に四面体になる (立方体の方が想像しやすい人はそれでもよい)が、 四面体(立方体)のオイラー数が2であることは目をつぶって思い浮かべても明かなので、 結局どんな多面体もオイラー数は2となるわけである。証明終わり。

 宿題をやっている子供にこんな話を長々とするわけにも行かないのでひとまず話を区切ったが、 後日、「実は2にならない多面体もあるんだよ」 と再び話題を持ちかけたら、 またまた興味を示した。
「ってことは、四面体に持って行けないカタチがあるってこと?」
おっ、子供だからといってあなどってはいけない。 その通りである。 浮き輪のように穴があいているドーナツ状の多面体は、 穴のない四面体には変形できない。 しかし変形でオイラー数が変わらないことは同じなので、 穴のある一番簡単そうな多面体を描いて、 点、辺、面を数えたところ、 オイラー数は0となった。 だから穴のあいた多面体では0なのだ。 同じように、 穴が二つの二連浮き袋形の多面体はオイラー数は-2、 三つなら-4という風になる。

 ここでまた話をしめくくったが、 実は私自身ここでふつふつと疑問が湧いて来たのだ。 なぜオイラー数は偶数なのか?  奇数になるカタチはあり得ないのか?  穴が0.5個というワケには行かないだろうが....  そこでいろいろ想像を巡らしてみた。 中空の多面体とか結び目のあるドーナツとかいろいろ考えてどれも関係なかったので、 ほとんど諦めかけたのだが、 ついに見つけたのだ。 まんざらインチキでもないと思うが、 人によってはインチキと思うかもしれない。 ちょっと考えてみたい人は、 ここで読むのをやめて考えてみよう。 ま、順を追えば、次のように考えたワケである。

 たとえば次元を一つ減らして、 地球表面に穴のあいた円盤(CDみたいな)が張り付いている様子を想像しよう。 この円盤を穴もろとも引き延ばして行くと、 ついには赤道を取り巻くはちまきのような帯になる。 つまり端のない帯と円盤は同じカタチと見なせる。 同じように、 3次元空間では両端が無限に長く延びている角柱とドーナツは、 少なくともオイラー数に関しては同型だ。 無限に長い角柱のオイラー数は0である。 これを二カ所で切って切り出すと、 普通の多面体となってオイラー数は2となる...




 しからば二カ所でなく一カ所で切って、 半無限の角柱とすればどうか?  やってみましょう。 見事!  オイラー数は1となる! それに針の穴のように貫通する穴をあければ.... オイラー数は-1となる!





二つ穴をあければ-3。 つまり半無限の多面体では奇数なのだ。 いかがだろう?  半無限なんてインチキだといわれそうだが。 それに、 ホモロジーとかの専門家から見ればかわいい議論かも知れないが。

この話をしたら子供が
「じゃあ今度は3以上になるカタチはないの?」
ギェー、 穴の数が負?  もう想像力の限界。 ちょっと休戦。


[最終稿:1999年5月25日]


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