高地での酸欠は大丈夫か?

先日出張でコロラドの山岳地の町Breckenridgeにある国際会議場に行った。アメリカは土地がふんだんにあるので、建物は垂直に高くなるより横に広がる。宿舎のホテルも中に会議場があるがかなり遠く、山岳地だから建物の構造もちょっとした高低差があって複雑である。さて会議場に向かう途中、ちょっと忘れ物をしたのでホテルの自室に駆け戻った。ところが、何だか体が変だ。部屋にたどり着く前に心臓がパクパク、呼吸が追いつかない。・・・

そう、かなり高度があるところなのだ。後で聞いたが、あと何十mで3000mという高地なので、走ることは禁物。ちなみに気圧はというと、約700ミリバールだから平地の約7割。富士山頂のように高山病にかかってもおかしくはない。

そういえば同じ地方のBolderという町に世界の時刻標準に一役買っている米国標準技術局の研究所(NIST)があるが、Bolderはまたマラソン選手の練習地としても有名である。Breckenridgeより高度は低いとはいえ、自分がちょっと走っただけで呼吸困難を体験してしまうと、高地でマラソン練習をするというのはとても同じ人類とは思えない。

ところで大気圧が700mbということは、酸素の分圧は平地の酸素濃度に換算して約15%に相当する(21%×700mb/1013mb)。これは大丈夫だろうか? というのは、酸欠が恐ろしいことはよく知られていて、通常酸素濃度が18%を切ると危険と言われる。液体窒素を扱う実験室や家庭でも室内にガス湯沸かし器を置くところでは酸素濃度計があり、18%くらいでアラームがなるようになっている。ではBreckenridgeにいてもなぜ平気なのか? 疑問に思ったのでちょっとWikipediaで調べると とある。これだと確かに15%はまだ致命的とはいえない。しかし18%にアラームが設定されるのが常である一方、換算値15%のこの町に人がたくさん住んでいるのはどういうことなのだろう? 分圧の比率が問題ということは考えにくい。酸素と二酸化炭素の交換をする肺の機能から考えると、分圧の絶対値が重要と思われる。つまり今の場合、平地の酸素濃度に換算した値が重要であろう。

おそらく、酸欠事故の初めは徐々に酸素濃度が下がり、それに気づかず意識を失って致命的なことになるのだから、まず18%になったら異常と判断して早めに対処するべきだからなのだろう。つまり値そのものより「減っているぞ」という傾向が危険なのだ。はじめから15%の地域では15%だから致命的ということにはならない。

それにしてもエヴェレストに酸素マスクなしで登った人達がいるようだが、こうなると本当に循環器系が通常人とは違うのではと思ってしまう。

[最終稿:2006年9月3日]


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