オイラー数(その2)

この話は「奇数のオイラー数!?」の続きだが、 まずそれを読むのが面倒な人のために要約しておこう: 思い出していただけただろうか? で、今回話したいのは、

有限の閉じた多面体で奇数のオイラー数を持つものを思いついた

という話である。

電車の中でボーッとつっ立っていたとき「オイラー数が1というのは、穴がないのと1つあるのとの中間だよな・・・」と考えていたら、 メリケン粉(近年は小麦粉という)ですいとんの団子を作るとき、 赤血球のように中心が凹んだ円盤状にすることを思い出した。 くぼみをつけ過ぎると穴があいてドーナツになってしまうが、 上下のくぼみが接して穴があく瞬間がある。 と思った途端、気がついた。 図1のように多面体のすいとん団子を想像せよ。 (a)→(b)→(c)のように上下をくぼませてそれを接触させた瞬間の(c)を見よう。 上下の二つの頂点がひとつに縮退している!

これはオイラー数が1である。 考えようによっては、 半無限のカタチというのは、 頂点の一つを(d)のように無限遠に追いやることによって数えないようにしているのだが、 今回のアイデアは二つの頂点をひとつにしてしまったわけである。

ついでに、変形方向を90度変えてみたらどうなるか? つまり「球→つぶして円盤→赤血球→ドーナツ」でなく「球→伸ばして円柱→くびれを入れピーナツ→二つの球」と、 細胞分裂させるのである。 次の図2の(a)はちぎれる前なので、 依然としてオイラー数は2であるが、 (b)は3である。 そして(c)はオイラー数2の多面体二つだからオイラー数は4。 これで「奇数のオイラー数!?」の宿題は一応できた。

「二つの物体を一つのものと考えるなんてインチキ」 と思うだろうか? そうかもしれないが、 量子情報をやっている者としてはそういう考え方に抵抗はない。 しかし確かに図2(c)だけは連結でないので、 とりあえず省こう。 それでも(b)にもう一つ頂点でくっつければ4になる。

ちなみに図1(a)は凸集合、 それ以外は凸集合ではないが、 図2(c)を除き星形集合である。 したがって図2(c)を除き単連結である。 また図1(d)は有界集合ではないが、 それ以外は有界集合である。

図1(d)は非有界なのでオイラー数が2でなくてもよい、 と言えるかもしれないが、 単連結の図1(c)を他の単連結多面体と区別し特徴付ける(ドーナツとも区別する)「なんとか集合」という分類を知らないので、 オイラー数のすっきりした分類はできない。 この専門の数学者なら知っているのだろう。 月並みだがとりあえず間違いないと思われるステートメントだけ書いて終わろう:

「3次元ユークリッド空間における有界凸多面体のオイラー数は2である」
(どうも「多面体」という制限は外せて、曲面体でもいいらしいが)

注)


[最終稿:2006年7月26日]


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